どうしてこんな案ができたのか


タイトルが長くなりましたが、
ちと気になるところがあるので書いてみる。


『「大阪府の教育力」向上プラン』
重点項目31に「読書活動の推進」が取り上げられている。
大阪府の小学6年生で読書の好きな子の割合は42%(全国平均46%)、
中学生においては33%(同44%)、
家庭での読書時間に関しても10分以下・全く読まない子の割合が
小学生では45.5%(同37.1%)、
中学校では63.9%(同50.3%)というデータを鑑みれば、
これからの府の教育施策に「読書活動の推進」が
組み込まれるのは当然のことだし、
それをきちっと取り上げた事も評価されるべきだと思う。
また、読書の楽しみを子どもたちに伝えるため、
自然体験などの実体験から読書活動へと繋ぐ、
という取り組みは素晴らしい指針だと思う。


その「読書活動の推進」の「柱」となるものが
素案骨子に図説されているんですが(PDFファイルの13p)、


・蔵書の充実
・ボランティアの活用
・司書教諭による運営充実


の三本になっている。これを見てちょっと唖然とした。


具体的に見ていくと、まず「蔵書の充実」に関しては
地域からの「本の寄付運動」に頼る、と図説されている。
この方針からして、素案骨子の「読書活動の推進」を担当された方は
子どもの利用傾向と学校図書館に必要な本というものを
全く理解していないのだな、ということが伺える。


子どもが読みたいと思う本、そして子どもに読んで欲しい本は
科学読み物、物語、ノンフィクション、伝記、絵本…
これら多種多様なジャンルを寄付でカバーできるだろうか。
また、子どもの本は毎年4000点以上発行される。
当然子どもは新しい本も読みたいし、
新しい本にも良い本、学校図書館に置きたい本はいっぱいある。
そんな本が果たして寄付で集まるだろうか。
そして、学校図書館には「読んで楽しむ本」だけでなく
「調べるための本」がある。外国の文化を調べる本、
公共施設を調べる本、植物の育て方を調べる本。
これらの「調べるための本」は子ども向けに作られており、
一般書店にはほとんど置いていないし、普通の家庭では買わない。
大阪府教育委員会はこの「調べるための本」を
どうやって寄付でまかなうのだろうか。


そしてさらに驚きなのが、
「ボランティアの活用」「司書教諭による運営充実」。
これを見てもやっぱりこの素案骨子を考えた担当者が
現場の状況を全く把握していないのが伺える。


まず「ボランティアの活用」だけど、
学校図書館へのボランティア導入は
学校図書館に関して専門的な知識を持つ人がいなければ
成り立たないし、実施すべきではない。
ボランティアを導入するためには、
ボランティアの担当する仕事と担当すべきでない仕事の
「線引き」を最初にきっちり行っていないといけない。
学校図書館は教育活動を行う場でもあり、
また児童の個人情報を扱う場でもある。
この両方はそれぞれの専門家(先生や司書)が行うべきであり、
それらに関わらない仕事をボランティアの方々にしていただく、
という「線引き」を最初にしっかりしておかないと、
後でトラブルの種となる。


しかしこの「線引き」を理解し、実行できる人材も
人的余裕も今の学校には(ほとんど)無い。
学校司書を置いていない学校や
司書教諭が不在の学校ではそもそも到底無理だし、
司書教諭がいてもおそらくそんな「線引き」ができる
専門知識を持ち合わせていない先生が多いだろうし
(現にウチの市内の司書教諭はほとんど機能していない)、
例え知識があっても授業軽減されていないかぎり、
そんな準備時間を確保するような時間的余裕は無い。
こんな状態でボランティアを導入すれば、
雇用形態が酷い学校司書が仕方なく担当して余計な負担となるか、
司書教諭の仕事量が増えて過労で倒れるか、
誰も何も考えずにボランティアが導入されて
トラブルが続出するか、という末路しかない。


また、先にも書いたように司書教諭というのは
級数が12学級以上でなければ発令されない。
司書教諭として働くことができない。
また、たとえ12学級以上で司書教諭が発令されていても、
その大半は授業軽減などがなく、クラス担任をしていたり、
一週間びっしり授業でスケジュールが埋まっていたりと、
司書教諭として働くヒマなんかない。
けれど、この素案骨子には授業軽減や担任免除などには
一切触れられていない。触れられていないのに、
司書教諭は「学校図書館の運営充実」をせねばならず、
公共図書館との連携をめざした教員研修」
も受けねばならないらしい。
このままこの骨子が通れば間違いなくほとんどの司書教諭は
過労で倒れる。






結局、この素案骨子からわかることは、


学校図書館は充実させたいし読書活動も推進したいけど、
なるべくお金はかけたくない」


という今までと大して変わりの無い方針だけ。
その方針で本気で読書活動推進ができると
この素案を考えた方々が思っているのなら、
学校図書館に関わる一人として、そして大阪府民として情けない。
こんな方々が大阪の教育方針を作っているのか、と。


学校図書館は、「場所(=図書室)」「本」「人」の
3つの要素で成り立っている。
今、大阪の学校図書館に欠けているのは、「本」と「人」
(学校によっては「場所」も酷いところがある)。
何十年も前の本が書架にびっしり詰まっている学校図書館
本があってもそれを手入れする人も、
子どもたちと本を繋げる人もいない学校図書館
そんな学校図書館が府内に山ほどあるから、
学力調査の読書に関するう数値が低い、
というのがどうしてわからないんだろうか。
学校図書館と読書活動推進を充実させるのに今必要なのは、
学校司書を全校に配置して資料費を今の倍以上にすること。
こんなに話は簡単なのに。