『ぼくは猟師になった』レビュー


今日読了した、


ぼくは猟師になった

ぼくは猟師になった


はかなり面白い本だった。
作者は京都在住の30代の猟師さん。
と言っても普段は普通の仕事をし、
猟期になると猟をする言わば半農ならぬ「半猟」生活。
学生時代から全く素人のまま猟の世界に入り、
先輩猟師に師事して猟の腕を上げてきたからか、
「素人の猟に対する視点」から猟の世界を
自分が学んできた猟の「基礎の基礎」から書いており、
「猟の世界ってなんかマタギとかの異質な世界みたい」とか、
「猟って結局は猟銃とか持ってて気の荒い人の趣味の世界じゃない」
とか偏見を抱いているような素人さんでもすんなりと
猟の世界に入り込んでいけて、
なおかつその奥深い世界に魅了されそうになる。


獲物を捕らえるために山に入り、山を観察し、
獣が残すほんのわずかな痕跡を探し出し、
獣の動きを先読みして罠をしかける。
猟という獣と人間の知恵比べの面白さが伝わってくる。
この作者さんは猟に熱意があり、
なおかつその面白さをわかりやすい表現と文章で
きちんと素人にも伝わるようによく考えて書かれてる。
文章力のある猟師さんだ。


けれど、この本は単なる猟の世界の紹介だけで終わらない。
猟師が獣を狩ることに対しての矜持がきっちり描かれている。
素人考えでは、猟と言うのは一種の趣味の世界であり、
肉はいくらでもスーパーで売っているのに
わざわざ野生の動物を殺して取るのはむしろ残虐な趣味だ、
と考えがちだけど、この著者はそのような素人の疑問に対して
真正面から応えようとしている。


猟師は決して楽しむために動粒を殺しているのではない、
むしろ猟師こそ動物を殺して食べることに対して
誰よりも畏敬の念と感謝の念を感じ、
命をいただくことを心底自覚して食べている。
猟師は狩った獣の一切を無駄にしない。
食べれるところは全て食べ、
食べられないものは山へ返し動物たちに返す、
猟師は獣たちとともに食物連鎖の輪の中にいる。


そこからは、猟師、というより作者の「食」に対する
読者への問題提起が垣間見える。
我々が食している多くの食物は大量生産品であり、
その食物がどのように育てられ、
誰がその食物を食べられるまでに加工しているか。
もしそのような大量生産過程が無ければ、
人は食べていくためにどれだけの苦労をしなければならないか。
猟師の生活はいわば原始の「獲って食べる」という生活に近い。
その原始の食生活と、「命をもらうからには一切を無駄にしない」
という猟師の食に対する心構えを読んでいると、
むしろ我々の食生活のほうが歪に見えてくる。


この本を読まない限り、「猟師」という世界の一切を
誤解したまま過ごしていたであろうことを考えると、
この本は猟師の世界を広めると言う点で既に良書であるし、
何より猟師の世界を通じて万人の食に対する
考え方を改めさせると言う点でも優れた作品。